喘息

1,診察

[1]主訴の問診と随伴症状

【主訴の状態】

①咳が出る。

②呼吸が苦しい。

③喘息がある。

【随伴症状】

①悪寒、発熱がある場合は熱病として治療する。

②胸痛があれば肺炎を疑う。

③痰が多ければ脾虚の可能性がある。

④呼吸困難のみなら肺気腫の可能性がある。

[2]望診と聞診

①慢性の咳の場合は顔に浮腫がある場合が多い。これは痰飲があるためで、脾虚胃虚熱証からの肺熱である。

②慢性の呼吸困難で胸骨が飛び出ている小児は肺虚肝実証が多い。

③湿った咳は痰が多く脾虚である。

④空咳は肺熱か肺寒である。

⑤顔が赤くなっている場合は肝虚熱証からの肺熱が多い。

⑥水太りであれば腎虚熱証または肺虚肝実証が多い。

[3]原因・経過・既往症

①熱病後の咳は脾虚胃虚熱証から肺熱になっている場合が多い。

②発熱がなく咳が出だした場合は寒証が多い。

③小児の喘息は肝虚からきた肺熱が多い。

④成人して喘息を発症した場合は腎虚からきた肺熱が多い。

⑤熱病に関係のない咳は肝虚や腎虚が多い。

[4]悪化の条件

①冬に悪化する喘息は肺熱。

②梅雨時期に悪化する喘息は脾虚証。

③寝て温まると咳が出るのは肺熱。

④冷える時間帯に咳が悪化するのは肝虚寒証か肺虚肝証。

2,証の決定

肝虚熱証

[1]病証

①呼吸困難、息切れと同時に咳や動悸がある。発作が起こると仰臥できない。

②痰は少ない。

③身体が温まると咳が出る。

④食欲がある。

⑤肺熱が大腸に入り便秘している。

⑥口渇、手足煩熱がある。

 

[2]切診

【切経】

①腎経、肝経、肺経、大腸経に圧痛。特に曲池、孔最に圧痛あり。

【腹診】

①心下の巨闕に抵抗圧痛がある。

②胸に熱感がある。

③中府に硬結圧痛がある。

【背診】

①肺兪に熱感がある。

②肩甲骨内側に凝りがある。

 

[3]脈診

①沈、弦で力がある。左右の寸口が強い。

②重按で左関上と尺中が虚。

肝虚寒証

[1]病証

①咳、呼吸困難。発作時は仰臥できない。

②食後に心下や喉に衝き上がってくる感じで苦しい。

③手足が冷え、小便回数が多い。

④軟便である。

⑤疲れやすい。

 

[2]切診

【切経】

①腎経と肝経に圧痛があるがあまり痛くはない。

【腹診】

①心下が薄く緊張している。

②巨闕に圧痛抵抗がある場合は水が停滞している。

③胸全体に虚熱があることもある。

④回盲部に圧痛がある。

【背診】

①肺兪周辺が冷えている。

 

[3]脈診

①全体に沈、濇、細、または弱。

②重按で左関上と尺中が虚。

③右寸口はやや力がある。

脾虚胃実熱証

[1]病証

①喘鳴はあるが痰が出にくく、呼吸困難が主である。

②咳嗽はない。

③食欲旺盛、口渇、便秘がある。

 

[2]切診

【切経】

①肺経に圧痛がある。

【腹診】

①左右の中府を結ぶ線で熱感を確認。もしくは中府の圧痛を確認する。

②中脘、不容の抵抗が強い。

【背診】

①肺兪周辺に熱感がある。

 

[3]脈診

①全体に大きくて強い。重按で指を跳ね返すような強さ。右寸口が特に強い。

②腎虚の脈が診られる場合は足の脈で判断する。足の少陰と趺陽を比較して判断する。少陰が強ければ腎虚熱証。趺陽が強ければ胃実熱による肺熱。

脾虚胃虚熱証

[1]病証

①咳が多く痰も出る。

②胃腸は丈夫ではない。

③便秘や下痢、腹満、腹痛がある。

④熱が少なくなると相対的に水滞が多くなり食欲減退、下痢、足や身体の冷えが出てくる。

 

[2]切診

【切経】

①肺経、脾経、心包経に圧痛がある。

【腹診】

①胸全体に熱感がある。熱が少なくなると逆に冷えている。

②中脘周辺に抵抗がある。抵抗が巨闕まで及ぶと水が多くなっている。

【背診】

①魄戸、膏肓周辺に圧痛がある。

②脾兪、胃兪を按圧すると気持ちよい。

 

[3]脈診

①全体に沈、弦。

②重按で左寸口が濇、細、虚、右関上は弦で虚。右寸口は弦で有力。

③症状が長引くと右寸口も弱くなる。

脾虚肝実熱証

[1]病証

①咳、喘鳴、 喀痰、呼吸困難がある。

②食欲がなく、口が苦い、時に吐き気もある。

③便秘、口渇があり小便黄色である。

④時に胸痛がある。

 

[2]切診

【切経】

①脾経、肝経、胆経、三焦経に圧痛がある。

【腹診】

①胸脇苦満がある。

②不容から中脘にかけて筋抵抗がある。

【背診】

①膈兪、肝兪、胆兪周辺が膨隆して圧痛がある。

 

[3]脈診

①全体に沈、弦、実または沈、細、実で熱があれば数が加わる。

②重按で左寸口と右関上が虚。左関上は実。右寸口はやや有力。

肺虚寒証

[1]病証

①咳は激しいが痰は少ない。

②冷えで症状が悪化する。

③手足も身体も冷えて小便回数が多い。

 

[2]切診

【切経】

①肺経全体が陥下して力がない。

【腹診】

①胸全体が冷えている。

【背診】

①肺兪周辺が冷えている。

 

[3]脈診

①全体に沈、細、微。

②重按で全体に虚。特に右寸口と関上が虚。

腎虚熱証~肺虚肝実証

[1]病証

①頑固な咳嗽や呼吸困難がある。

②発作が起こると仰臥できない。

③喉が乾燥してイガイガする。

④肺が乾燥して熱を持っているので口渇がある。

⑤肺に熱があると夜に咳が出やすくなる。

⑥足、または身体全体が熱い。

⑦肝実が加わると便秘になりやすい。

 

[2]切診

【切経】

①腎経と肺経に圧痛がある。

②肝実があると曲泉から上の肝経に圧痛がある。

【腹診】

①少腹不仁があり胸に熱感がある。

②水が多くなると腹部全体が膨満し力がなくなる。

③肝実なら下腹部や鼠径上部に圧痛抵抗がある。

【背診】

①肺熱があるのに肺兪が冷たい場合がある。これは内に熱があるが表面に水が多いためである。

②肝実があると肩甲骨内側が凝ってくる。

 

[3]脈診

①全体に大きく、沈、滑。数がある場合が多い。

②右寸口または左右の寸口が沈、滑、実。左尺中は虚。

③水が多くなると全体に沈、弦。

④肝実があると左関上は沈、弦、実。

3,治療

[1]本治法の治療穴

【肝虚熱証】

①復溜、中封、魚際の補法。

【肝虚寒証】

①中封、復溜、臨泣、陽池の補法。

【脾虚胃実熱証】

①労宮、太都の補法。魚際、孔最、委中の瀉法。

②中脘、天枢、跗陽を瀉法。

③肺兪、膈兪を瀉法。

【脾虚胃虚熱証】

①間使、商丘、魚際の補法。肺熱が取れなければ孔際の瀉法。

②肺熱が少なく脾虚寒証になったら大陵、太白の補法。

【脾虚肝実熱証】

①大陵、太白の補法。行間、中封、足臨泣、中渚の瀉法。

【肺虚寒証】

①太淵、経渠、陽池、衝陽の補法。

【腎虚熱証】

①復溜、然谷の補法。

②水が多い場合は尺沢。

③肝実があれば行間か曲泉の瀉法。

[2]標治法の治療穴

①肺熱があれば人迎、天突、兪府、中府、肺兪、肺兪内側の脊際、に瀉法か知熱灸。

②肺寒があれば肺兪に補法か透熱灸。